フリートーク
フリートーク。フリートーク。
まぁ、いいんじゃない。
それで。
岡田さんの生い立ちなど語ってください。
生い立ちぃ?
だってね。岡田さんの人間性を売りにするよりないんですよ。
ははは。
なんでもしてください。
先だけ欠けたら、先だけ研ぐ
これとこれいくか。
あと個人的にこれ(藤次郎牛刀)をやって欲しいんですが。
研ぐのたいへんなんですよね。
大丈夫だよ。
一回研いたやつは全然平気だよ。
包丁の形にしてっから。
ぜんぜん平気だよ。
うん。後はどれやろう。切り出しをやろうか。
この欠けたのが面白いよね。これがどうなるかっての。
こういうのは、どこを気をつけて研ぐんですか?
これ?
どういうことを気をつけるかってったって、なるたけね。
刃物ってのは、元を戻すように先だけ欠けたら、先だけ研ぐようにやっていったほうがほうがいいんですよ。
と、いうのは、そうするとちょっと角度が変わるけれど、それで研いだほうが 角度が変わっても後で元へ戻せるわけでしょ。
そうすると、全体に研ぐと全体に痩せちゃう (A)けど、先だけこう、直して研ぐと並行して斜めになるけども、痩せる比率が少ないじゃない。 (B)
どんどん同じ平均にやってくと無くなっちゃうでしょ。
そうじゃなくて、斜めに研ぐと、ここは残って先だけ研ぐような感じでやったほうが、全体の耐用年数も伸びるし・・・
研ぐほうも楽ですよね。
研ぐほうは楽だからってんじゃなくて、やっぱり、刃物を長く使ってもらうにはどうしたらいいかって考えながら研ぐんです。
省力化ではなくてね。
刃物にとってどうなんだろう。
で、使う人にとってどうなんだろう。
ということを考えて研いでいる。
使う人がどういう使い方をするんだって言うことも考えて研いでる。
昨日もね。そば切り包丁を持ってきた人がいたんですよ。
そば切り包丁ってあんまり刃を付け過ぎると、下の台に食い込むわけね。
そうすると、刃は付けるんだけども、止め刃っていって先をちょっと鈍角にしてやるんだけど、使う方が女性の方で、まぁ50代の人なんですよ。
だから、ある程度の刃は付けて、しかも刃を下ろしたときに板に食い込まない程度に、止め刃をしてやるっていうか。
そういうバランスがね。技術というより、相手の人がどう使うかということを考えて研ぐだけだから。
大体このぐらいの力で使うだろうっていうことが想定できるわけ。
そうは言っても、研ぎを覚えたばかりで仕事を始めた人には難しいんでしょうね。
ああ。それは、研ぎ10年って言うから、あのー難しいんだよね。
自分だけ満足しても駄目なんだよ。
自分がいいなと思っても駄目。
自分がいいなと思えて、しかも、使ってもらうお客さんもいいなと思えるような研ぎ方をする。
そういうことをしていかないと、本当の研ぎにはなっていかないっていうかさ。
本当に感心するのは、無駄に研がない。ってところですね。
無駄に研がない。で、多少の刃こぼれなんかも、結局、調理するのに差し支えなければ、全部落とさないの。
そうすると、何でかって言うと、それで全部落として、また研いで、刃こぼれがあって、また落としていくと、刃物が減る度合いが強くなっていくわけだから、完全にやっていくのは、そら見栄えがいいかもしれないけれど、まぁ、バランスですよね。
そのあたりは。
黒くなっちゃった包丁も、研がない(磨かない)というのも感心しました。
あれをやっちゃうと逆に錆びちゃうんですね。
そうそうそうそう。
まぁ、いずれにしても研ぎは奥が深いですよ。
自分だけが満足する研ぎ方は、それは営利的にはあるんだけども、その向こっ側にお客さんがいるわけだから、お客さんの使い方だとか、年齢だとか、そういうことも全部含めて考えていかないと、なかなかね。
本当にうまく研いでいくことは難しいよね。
使う人がいて、の、研ぎだから。うん。
よしっ。っと。取りあえず。
片刃の場合は裏がまっ平らじゃなきゃ駄目なんで
これは、前俺が研いだやつだっけ?
こっちは研いでもらってません。
裏が丸っ刃になってる。
駄目なんですか?
いや、基本的なことをいうと、片刃の場合は裏がまっ平らの方がいいんですよ。
よくね。
出刃でも柳刃でも、裏に角度を付けて両刃のように研ぐ人がいるんだけれど、それじゃほんとの切れ味はでない。
だから、そういう人には預かるときに前もって見てね。
状態が悪かったら、「片刃の場合は裏がまっ平らじゃなきゃ駄目なんで、あのその分直しますから、それでいいですか」って念押しをして、それからやるんですよ。
でないと、裏の刃の付き具合が、最初は少ししか付いてないのが、平らに研ぐと、平らに落とした分だけ、幅が広くなっちゃうんですよ。
「これは違う。」とかね。
「こんな研ぎ方駄目だ。」とか、言う人がたまにいるんでね。
そういう人には最初から断りをして、やる。と。
いきなり預かって、「はい、研ぎます。」じゃなくて、「拝見させてください。」って断って、それで、「ここはこうだからこういう風にしますよ。」って、お客さんが納得してもらえるようなことを話をしないと。
後になってこういう風にしたからって勝手にやるとクレームにはならないにしてもね。
やっぱりそういうところは親切じゃあないなっていうのがあるからさ。
預かるときに必ずね、見るんですよ。
刃物を。
どういう状態なのか。
それで、刃が欠けてるとか、欠けてないとか、刃こぼれの状態とか、刃の形とかね。
そういうの全部見て、それから預かるわけ。
なんの商売やってても、基本的にはお客さんがいて、こっちのやってることが成り立つっつぅ部分があるから、そこらあたりは気をつけていかないとね。
中にはね、1年半とかで来るお客さんもいるけど、状態をみたら細かい刃こぼれがたくさんあって、持って来る人もいるよ。
でも、本当に刃物のことを考えたら、少なくとも3ヶ月に一回はさ。
刃こぼれは研げば直るけど、やっぱり使ってるコンディションを良くしていると調理もはかどるし。
一般の家庭だと包丁研ぎを3ヶ月に一回頼むのはなかなか難しいんじゃないですか。
んー。まぁね。
だから、1年に一回とかね、1年半に一回持って来る人がいるんですよ。
やっぱり、そこらへんはお客さんの自覚でね。
研ぎ方自体が刃の形に添って研いでるから、極端に切れ味が落ちるっていう感じじゃないから、切れないのにどんどん慣れていくわけじゃないですか。
だから、1年スパンで持って来る人もいるわけ。
極端に刃先、丸っ刃にしてその時だけ切れるっていう研ぎ方じゃなくて、刃の形に合った研ぎ方をして、それで刃こぼれをしないようにしてるわけでしょ。
そうすると、切れ味が本当に少しずつしか落ちていかないから、感覚的にはまだ切れる、まだ切れるっていう感覚なんですよ。
うん。だから、長い人は1年スパンぐらいで持って来る。お客さんも三百人以上いるんだけど。ふふ。
昨日ねぇ。
先週の金曜日に、松戸市根元のお客さんなんだけど、その人が前にいつ持ってきたんだか調べたら 2年前だった 。
はは。
それで刃こぼれがすごいんだよ 。
それでお客さんが、「いや、あの刃こぼれがすごいんですよねー。」
「これぐらいは大丈夫ですよ 。お金いりませんから 。」
へへ。
綺麗に研いだんだけど 。
うん。
片側だけでいいんですよパン切りは
このパン切りはいいパン切りだよ。
これ、モリブデン、バナジウムとあとステンレスの合金だから。
いわゆるハイステンレスっていうやつ。
普通の包丁はステンレスだけってのが多いんだけども、これはいい包丁。
関孫六っていうのは、貝印が出しているブランドですよね。
シェーバーなんかあるんだけど、うん。
パン切りできましたよ。もうできたよ。
片側だけでいいんですよパン切りは 。
この波形があるでしょう ?こっちの方は研がないんですよ 。
そう。それでも全然バリバリですよ 。
それで先端だけ片刃になっているから、それだけ研いでる。
先端だけ、これだけ、ここだけ 。
砥面直し:砥石の表面を直す
これは、砥石を平らにして、当たる面が均一に当たるように、「砥面直し(とづらなおし)」をしてるんです。
それで、今、先が欠けてるやつ直してるんだけど、全体を研ぐんじゃなくて、先だけ研ぐような感じでやって直していくわけね。
全体を研ぐと全体に減っていくんで、欠けのある時は欠けのあるところを重点的に研いで、それで形を整えていく。
これで今、裏表変えたでしょ。確認したでしょ。
これは砥石の、研ぐと、こういう風に研ぐと、これを逆にすることによって、平均に使えるわけ。
で、なるたけ砥面って、砥石の面は平らになっていくような感じに使って、元から先まで平均的に使う。
どうしても力の入れ具合で真ん中がね、こう、引っ込んでしまうんですよ。
だから時々、砥石の表面を直す。
そうすると、ここが高いけど、ここは引っ込んでるわけ。強く当たってるわけ。
だから、これを全体的に均して。
結構頻繁に面出しますね。
まとめてやると、かなり引っ込むから、いつも平均に平均にもっていくように、頻繁にやったほうが、かえって楽なんです。
はい。形になりました。
これから仕上げていきます。
はい。
これが仕上げ砥石。
天然仕上げ砥石。
ちょっと模様がね。独特。
これは安かった。7万円。
この前のと模様が違うでしょ。
これは山によって、採れた地層によって模様の個性がでる。
今この天然の砥石の、昔は本山って砥石が採れる山が決まってあったんだけど、今この本山が無くなって来てるんで、もうそこは採れないんですよ。
あー。なんだよ。
欠けちゃったよ。やりすぎたよ。
なんだよ。欠けちゃったよ。
ここ、なんか欠けがあったんだなぁ。
また、最初からやりなおし。
しかたないんだけどさ。
こういうこともあるんだよ。たまにはね。
研いでてさ、あぁなんだよ。欠けちゃったよ。
みたいな。あるんですよ。
あのね。
金属って均一じゃなくてムラがあるから、どっかに傷があったり、ヒビがあったり、そこはね、ぽろっと欠けちゃう。
それはもうしょうがないんだよ。
やっちゃいけないんだけど、やっちゃおうか。
「しのぎ」を取っちゃう。*注
そうすると、今みたいにね、欠けにくいんですよ。
ちょっとこうナナメにしてやると欠けにくい。
こういう風に。
表から見るとナナメになってるけど、裏から見たらなってないでしょ。
ここにほらちょっと研いだ角度が違うとこが見えるでしょ。
これが、「しのぎ」っていって、欠けにくくするテクニックだよね。*注
すこーしだけ角度違うじゃん。
すこしだけ。
分かるかな。見て分かる。
これやっとくと、先が欠けにくい。
だから普通の包丁でも、結局研ぎっぱなしだと、欠けやすいからこういう角度、これがまっすぐ、まっすぐだと欠けやすいでしょ?
だから、こう背中をしのぎを丸くしてやると、これはもう、どんな刃物でもそうなんですね。
よし、じゃあ。これをまた仕上げましょう。
なんだよ。あるんだよな。
やってみないと分かんないことだけど。
*注
刃物の側面を「平」、刃がついている部分を「切刃」といいます。
平と切刃の稜線が「しのぎ」です。
この時岡田は勘違いをしてまして、刃物の背中側を峰というんだけど、これを「しのぎ」「しのぎ」と言っています。
お恥ずかしい次第ですが、これを峰の切っ先と置き換えてお読みください。
ようするに、先が鋭すぎるので、少し落とすということです。理屈は止刃と一緒だよね。
何か予感みたいなのはありますか。これは欠けそうだとか?
欠けるなと分かるのは、歴然と分かるのは、たとえばそこんとこに黒いシミがあったりとか、この、刃のこういうところにポツポツポツとシミがあったりとか、そういうのは欠けるなというのが分かるね。
研ぎあがったのを確認するのは、こっちの面もバリがない。
こっちの面もバリがない。そういうときは、研ぎあがった状態。
天然の砥石なんかは、一番最後に粘りが出てきてこれは「のろ」って言うんだけど、のろを強くするために、一番最後に唾を混ぜると、のろが強くなる。
そういうテクニックがあるんですよ。
知り合いの画家の先生が、版画を摺るときにバレンをこう、頭に擦り付けるんですよ。
髪の毛の油を付けてバレンのすべりをよくするんだって言ってました。
あー。そうそうそうそう。それと同じ。
よく針が、縫い針なんかでもよく通るようにって頭にこう、やるでしょ。あれと同じ。
ノウハウがね。どの業界でもあるんですよ。
先端のカーブ付いてるところはさぁ。
カーブ付いたなりに角度付けて、こういう研ぎ方するんですよ。この先端はね。
それで、こう馴染ましていくの。
これでいいんだけど。
でないと、先のカーブが出ないんですよ。
自分の研ぎ方は建築の研ぎ方に基づいてやってる
魚屋さんなんかで、砥石が丸くなったやつで平気で研いでる人いるでしょ。
あーいうの見るとね。
なんで、こういう砥石で研げるんだろうって。
俺なんかの場合は、建築の刃物を研ぐってところからやってるから、例えばカンナとかノミとか何でも研ぐんだけども、やっぱり砥石の面を平らにしないと、カンナなんか研げないんですよ。
だからどうしてもこういう癖がついてるっていうか、平らにしてからでないと、接触面を広くしていく、そういうのじゃないと。
だから、魚屋さんなんかの研ぎ方は逆にできない。
あれは瞬間的に刃先だけを研ぐって言う研ぎ方だからね。
カンナなんか特にそうなんだけど、刃の角度をキープしないと研げないんですよ。
自分の研ぎ方は建築の研ぎ方に基づいてやってるから。
包丁それぞれの角度があるんで、極端な話をすると、この角度とこの角度は違うわけでしょ。
それと同じように、これはこの角度なり。
で、これはこの角度なり。
で、刃こぼれ防止のために先端だけちょっと鈍角にしてやる。
そういう研ぎ方。
出刃とか柳刃なんかは、出刃なんかは特に骨なんかに当たる確率が多いんで、止め刃をちょっと強くしてやる。
柳刃も止め刃をちょっと強くしてやる。
そうすると刃こぼれがしにくくて、長切れがするっていうか。
そういう研ぎ方なんだよね。
研ぎの作業は大体 80%が形を作るっていう中仕上げ
それ(藤次郎コバルト合金性牛刀)はやっぱり硬いですか?
これ?
一番最初に時間が掛かったのは硬いのもあるし、角度がちょっと先だけ研いであるんですよ。
それを、包丁本来の持ち味に合わせた刃の角度にするのに、モリブデン(注:コバルト鋼です)が入ってるんで、ちょっと硬かった。
一番最初はすごいたいへんだった。
一回もうこれ、形作ってるから、もう後は研いでいけばいいだけ。
これは仕上げ砥石なんだけど、研ぎの作業は大体 80%が形を作るっていう中仕上げ。
これが中仕上げ砥石なんだけど、あとこれとか。
で、これが 800番、これは 700番。で、これが 2000番。
これね。番手でいえば。
だから、密度が高くなるほど仕上がっていくっていうか。
そういう感じなんで。
基本的に出荷するときには、兎に角切れるような状態で、「鍛冶屋研ぎ」っていうんだけど、それで出してるんだけど。
家で使うときにはやっぱり、その包丁の角度に合わせた研ぎ方をする「本研ぎ」の方が切れ味が出るっていうかね。うん。
それはもう全然違う切れ味で、食材なんかでも、切り口がいいと食材がおいしそうに見えてくる。
特に刺身なんかを冊で買ってきて、自分とこで柳刃なんかの良く切れる包丁でスパッと切ると角が立ってるんですよ。
だけど、切れない包丁でやると切った面がぐずぐずになってくるんでおいしそうに見えない。
自分なんかは思うのは、切れ味も味のうちだなぁってのがある。
食材の持ち味を生かす包丁の切れ味っていうか。
一番いい例が玉ねぎ。
玉ねぎを切っても目が痛くなりにくい。
で、なんでそうなるかっていうと、玉ねぎを切って目が痛くなるっていうのは細胞を潰してるんですよ。
切れる包丁っていうのは潰す細胞の数が少ないから、目が痛くなったとしても、ほんとにちょっと軽く目に来るかなって感じ。
本当に切れない包丁で玉ねぎを切って、目に染みるっていうのとは全然違ってるって。
やっぱりそれはね。
切れる包丁ってのは細胞を潰さずに切るんで、全然違ってきますよね。
トマトなんかもそうですよね。
切れる刃は切れるから。
皮が引っかかるようになっちゃうともう駄目ですよ。
もう当てた瞬間に刃の重みで切れていくっていうのが本当の切れ味だよね。
見た目もおいしさを引き出すっていうか、特に日本料理なんか、懐石料理なんかは、やっぱり見た目でね。
目で味わうっていうそういう部分が重要になってくるから、だから板場の人は毎日自分で包丁を手入れして、食材がいかにおいしそうに見えるかっていう切り方を創意工夫しているわけなんですよ。うん。
はい。出来上がりました。
ありがとうございまーす。
これ正広なのにひどい。
これ。なんなのこの刃の欠け具合は。
これだよこれ。
これじゃ手も切れない。これはひどい。
これはね。物はいい。堺の正広。正弘は泉州堺。
で、これはNEOステンレスって言って、出てるのが鋼で、こっちが地金っていうか鍛造品だから。
これは物はいいんだけど、手入れが悪い。
余りにも刃こぼれがひどいから、一回先を潰す。
こうなる前に研がなきゃ駄目なんだよ。
あのねぇ。何でもそうだけどね。
ずーと継続してやっていると、腕がよくなるっていうかさ。
自分でもまだ極めてない部分が、ここはこうした方がいい。みたいな部分が必ずあるから。
だから、それはね。
なんでもそうですよ。なんでも創意工夫だから。
だからやっぱりね。
たまにはひどい包丁を持ってきてもらったほうが。
たまにはね。
それはそれで研究材料ではあるんだよね。